自治体が行っているさまざな介護支援

国の介護保険制度を利用して、住宅改修や福祉用具レンタルの支援など、さまざまなサービスや支援を受けている人は多いだろう。これらのサービスは、介護が必要な人を対象としたものだ。それとは別に、介護をしている家族に対する支援がある。国ではなく、各市町村の自治体が行っているもので、「家族介護支援事業」という。

「家族介護支援事業」は、介護をしている家族を対象とした支援で、介護保険サービスだけではカバーしきれないことまで補足されているのが特徴だ。ただし任意であるため、介護をしている家族をどのようにサポートしてくれるかは自治体によって内容が異なる。どんな支援があるのか、いくつかの自治体が行っている事業を例にとって、紹介しよう。

 

介護する家族を対象とした「家族介護慰労金」

介護する家族を対象とした「家族介護慰労金」

自治体が行っている「家族介護支援事業」のひとつに、重度の介護者の家族を対象とした「家族介護慰労金支給事業」というものがある。実施しているかどうかは自治体によって異なり、対象となる条件はかなり厳しい。所得が低い、可能な限り自力で在宅介護をしたいなど、さまざまな要因で介護保険サービスを利用せずに介護を頑張っている家族に対する慰労金のようなものだ。

東京都豊島区の例を挙げると、次の条件を満たしている対象者に対して、「家族介護慰労金」として年額10万円(1回)を支給している。

①区内に1年以上居住する要介護4または5の要介護被保険者と同居または同居に準じている、在宅介護している親族。②要介護者が要介護4~5に該当する期間内に、介護保険サービスを利用せず(年間7日以内の短期入所生活介護または短期入所療養介護の利用を除く)、かつ3月以上継続して入院していない期間を継続して1年以上有していること。③要介護世帯と介護世帯がともに住民税非課税世帯であること。④要介護者および介護者が介護保険料を滞納していないこと。

これは、あくまで一例で、支給額は同様の制度を実施している自治体によって異なるし、さらに追加条件が設定されている場合もある。申請から支給までの流れとしては、市町村の介護窓口に問い合わせて申請書を入手し、必要事項を記入したら窓口まで持参するか送付する。審査が行われて支給要件を満たしていれば、訪問調査などが行われ、支給が決定される。

 

寝たきり高齢者とその家族への支援

寝たきり高齢者とその家族への支援

鹿児島県鹿児島市では、寝たきりの高齢者が心地よく暮らせる、さまざまな支援サービスを行っている。65歳以上で要介護3以上の寝たきりの在宅高齢者に対し、理容・美容業者が訪問してくれる「理髪・美容サービス」、寝具の洗濯や消毒、乾燥を行ってくれる「寝具洗濯サービス」を、いずれも年3回以内実施。ほかにも、寝たきり高齢者のところまで訪問し、歯科診療してくれるサービスもある。

同市では、対象の高齢者が、紙おむつ等を使用している場合は、紙おむつを支給または現金の一部を助成するなど、家族の経済的負担の軽減させる支援も行っている。寝たきりの人も、介護する家族も助かる、自治体が行う支援のひとつだ。

ほかにも、在宅の寝たきり高齢者等を介護している家族に対して「介護手当」を支給。対象となるのは、65歳以上で要介護3以上の在宅高齢者と同居、またはこれに準じる状態で、6カ月以上介護している人。寝たきり高齢者等一人につき年額9万円(ただし、国の特別障害者手当等を受給している場合は、年額4万5000円)。これらのサービスを受けるには市への申請が必要で、サービスによって必要な書類や確認などがある。

 

徘徊のおそれがある高齢者の早期発見を地域で支援

徘徊のおそれがある高齢者の早期発見を地域で支援

神奈川県茅ケ崎市では、認知症の高齢者など、徘徊行動が見られる人を介護している家族を対象に、徘徊者の早期発見に役立つGPS(位置検索機器)をレンタルしている。当該者が徘徊した場合、家族がオペレーションセンターに電話で問い合わせると、徘徊者の位置情報を確認することができる。また、自分のパソコンや携帯電話からインターネットの専用ホームページにアクセスして徘徊者の位置情報を確認することもでき、早期発見の助けにできる。

市がGPSをレンタルしている対象は、おおむね65歳以上で、徘徊行動の見られる認知症高齢者を在宅で介護している家族。レンタル利用料は登録料1000円、月額550円(生活保護世帯は無料)。レンタルする場合は、事前に市が整備している「SOSネットワーク」に登録する必要がある。

「SOSネットワーク」とは、茅ケ崎市が独自で整備している、高齢の徘徊者等を捜索するシステムのこと。徘徊のおそれのある高齢者の情報を「SOSネットワーク」に登録すると、その情報が警察や特別養護老人ホームなどの施設と共有される。徘徊者が行方不明になったとき、警察に連絡を入れると、関係機関に捜索協力の依頼をするなど、ネットワーク網と連携とりながら捜索をするシステムになっている。

ここまで紹介したものは、自治体が行っている介護に関する支援のほんの一例。知られていない自治体の支援はほかにもたくさんある。どんな支援が利用できるか、住んでいる地域の市町村の窓口か、地域支援センターに連絡を入れて確認するのがおすすめだ。窓口の名称は自治体ごとに「保健福祉部介護保険課」、「すこやか長寿部長寿支援課」、「高齢福祉介護課」などと異なる点が難点だが、「介護について相談がある」と伝えることから始めてみよう。

2017年7月14日掲載