介護に使えるロボットと聞いて、皆さんはどのようなものを想像しますか?

マッスルスーツのようにお年寄りの移乗や入浴、排せつなどをサポートするもの、歩行支援やリハビリ用に開発されたもの、などを思い浮かべる方が多いでしょう。

これらのもの、全て正解。介護ロボットとは、読んで字のごとく介護に用いるロボットの総称のことなので、マッスルスーツもリハビリ用も全て介護ロボットといえる。ただ、最近は、用途や機能の違いから、介護ロボットもいくつかのカテゴリーに分類されていて、主に移乗や入浴、排せつ支援など介護業務の支援をする『介護支援型』、歩行やリハビリ、食事など介護される側の自立を支援する『自立支援型』、利用者とコミュニケーションをとることで、自宅介護の一人暮らしの老人などのメンタルケアや見守りに活用する『コミュニケーション・セキュリティー型』の3つに分類されている。


急がれる介護ロボット開発

介護ロボットは現在、官民挙げて開発が急がれているが、その背景にあるのは、急激に進展する高齢化社会、それに伴う、要介護認定者数の激増、一方で、深刻化する介護人材不足などが挙げられる。

内閣府が発表している高齢化白書によると、2017年時点で65歳以上の高齢者は3,515万人で、全人口の27.7%を占めている。推計によると、2036年には総人口が減るにも関わらず、その比率は33.3%と実に3人に1人が65歳以上となる見込みである。

高齢化に加え、2019年3月末の要介護(要支援)認定者数(厚生労働省が発表した介護保険事業状況報告書)は、658.2万人とこちらも急激に増え続けている。


高齢化の推移と将来推計

出典:内閣府 平成30年版高齢社会白書(全体版) 高齢化の現状と将来像
図1-1-2.高齢化の推移と将来推計


一方で、全国各地で福祉・介護人材の不足は深刻化しており、人材確保が急がれている。2020年度末には約216万人、2025年度末には約245万人必要とされているが、まだまだ足りておらず、2020年度末までに約26万人、2025年度末までには約55万人の介護人材を確保する必要があるとしている。


第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について

出典:厚生労働省 社会・援護局 福祉基盤課 福祉人材確保対策室
「福祉・介護人材の確保に向けた取組について」2018年9月6日
図:第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について



続々と発売されるコミュニケーション・セキュリティ型ロボット

こうした背景を受けて、実際の介護現場で使用される『介護支援型』や介護される側の自立を支援する『自立支援型』の開発は急速に進められている。また、介護の有無に関わらず、一人暮らしの高齢者が増えていることから、最近では、『コミュニケーション・セキュリティー型』ロボットの開発も活発になってきている。必ずしも、高齢者用に開発されたものでないものもあるが、その利便性や高機能により、一人暮らしの高齢者のメンタルケアや見守りに役立つため、新しい用途としても注目されている。

『コミュニケーション・セキュリティー型』ロボットが注目されているのは、前述した深刻化する高齢化が挙げられるが、ここ数年、人工知能(AI)やセンサーの技術革新が進んだことが大きいと言われている。さらには、インターネットなど情報通信ネットワーク等のインフラ整備も後押ししている。

コミュニケーションロボットは、会話により脳への刺激が認知症予防につながったり、ダンスや体操などちょっとした運動を行うことで、筋肉の萎縮や衰えを予防して、寝たきり防止につながったりする効果が期待されている。犬や猫などペット類も同様の効果があるとされているが、ペットを飼えない環境も多く、その代わりとしても期待されている。


ソニー aibo

ソニー株式会社 aibo http://aibo.sony.jp/


コミュニケーションロボットの代表的なものは、ソニーが1999年より販売している、ペットロボットシリーズのAIBO(アイボ)である。人工知能のAI、視覚のEYE、日本語の相棒から名付けられ、2018年にデザイン変更されてからは、小文字のaiboとなった。環境や人との関係によって成長し、個性が出てくるため、本当のペットのようにかわいがっている高齢者も少なくないとされている。その他にも犬型、猫型、アザラシなど一見ロボットとわからないものもたくさん市場に出回っている。

ロボットとは言い切れないが、スマートスピーカー(AIスピーカー)も一人暮らしの高齢者が購入している例が多いと聞く。代表的なものに、Google Home、Amazon Echo、LINE Clovaなどがある。総務省がコミュニケーションロボットとして取り上げた事例が下記の表である。しかしながら、ここで紹介されている以外にも、既にたくさんのロボットが世の中に誕生している。


コミュニケーションロボットの事例

出典:総務省「平成27年版 情報通信白書」第2部 ICTが拓く未来社会
各社ホームページより作成


介護現場でのロボットの普及は、徐々に進んでいるが、やはり、価格面や慣れるまでの操作方法や使い勝手、介護現場と介護ロボットとのミスマッチなどまだまだ課題は多い。コミュニケーションロボットに関しても、便利で扱いやすい反面、見守り型の介護ロボットなどは、要介護者のプライバシー保護の観点からいかがなものかといった議論なども生じている。

いずれにしても、本格普及はこれからであるが、高齢者へのプレゼント需要などはますます増えそうだ。



2019年6月19日掲載